Tadashi KATOH

構成・演出:加藤 直

 

「沖縄というラビリンスに迷いこんで演劇が忘れていること」

 

ボクは妄想する。遅ればせながら日本が、日本人が“わたし”という自分の正体を本気で

求めるのなら、一度は沖縄という迷路に足を踏み入れ、途方に暮れてみるといいと。うま

くいけば、正常或いは日常と呼ばれる見慣れた日々の、奥のそのまた奥にある見知らぬ

空間や時間に行きあたることが出来るかもしれない。さらに運がよければいや、努力次第

と言うべきだろうそこに棲む他人という怪物に出会えるはずだ。怪物の一瞥をくらい親しん

だ言語や身体がいとも簡単にすっ転ぶ様を目撃する場合もある。といささか大仰ではある

が沖縄について考える時こうボクは妄想する訳だ。  平良とみさんと共動することでこの

妄想はどうやら一歩現実に近づいたようだ。彼女の演技は、近頃やたら便利に使われて

いる“リアリティ”なぞという言葉もブッ飛ぶくらい強烈な即興性を持っている。成程演劇は

一方で再現を余儀なくされる表現だが、再現は限りなくフォルム化する方向を持ち易い。

そこでフォルム化という保守へ向かう力に対抗し、絶えず新しい観客に新鮮な演技を掲示

するために強力な即興力を俳優は獲得しなければならないのだ。  今、日本や世界は一

見わかりやすい近代という制度にまとめられつつある。こんな時こそ即興力が必要なのだ。

そう。平良とみさんは、沖縄は、ボクらの近代を撃つ即興力という訳だ。プロデューサーの

下山さんにそういう沖縄にブチ込まれたボクは“ならば”とその厄介を楽しむことに、これか

らの表現を獲得するために、一度は通らなければならない面倒を引き受けることに腹を決

めた。

 

1970年「68/71 黒色テント」(現在黒テント)の創立に参加。以降「シュールレアリズム

宣言」を始め「都会のジャングル」「あちゃらか商人」(台本/山元清多)など黒テントでの作・

演出とともに、80年代中頃からは劇団外でも活発に活動する。「イカれた主婦」「ピーター

パン」「沢田研二・ACTシリーズ」のようなエンターテイメントなロングラン作品を生み出す一

方、宮沢賢治、シェイクスピア、プレヒトの作品を独自の視点で捉え直しながら、「劇団うりん

こ」「オペラシアターこんにゃく座」などの個性的な活動をつづけるグループと共同作業をお

こなうという長期的な課題をもつ。仕事の分野は、オペラ、演劇、ミュージカル、コンサート、

合唱と多岐にわたるが、近年は、ジャンルにとらわれない新しい総合芸術としての「楽劇」

づくりに意欲的に取り組んでいる。(財)神奈川芸術文化財団の演劇部門プロデューサー。

東京芸術大学オペラ科講師。